【1回戦】鹿児島実-富山商(1996年全国高校野球選手権大会)

1996年8月9日 8:30 阪神甲子園球場

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
鹿児島実 0 0 0 0 1 0 1 0 4 6
富山商 0 0 1 0 0 0 3 0 0 4

【投手】

鹿児島実:下窪 - 林川

富山商:越 - 深田

▽本塁打:興津(富)

▽三塁打:山下(富)川田(鹿)

試合時間:2時間7分

観衆:1万1千


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出場選手

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鹿実 土壇場の逆転劇

【鹿児島実-富山商】9回表、鹿児島実2死満塁、川田の三塁打で三走下窪がホームイン。続く二走鍛冶屋もかえり同点。=甲子園

川田が走者一掃三塁打

勝負がどう転ぶか最後まで分からない試合だったが、鹿児島実が土壇場でひっくり返した。

1点を追う鹿実は五回、先頭の宮田が三遊間を抜く安打で出塁。

一死後送って二死二塁で川田の遊ゴロが内野安打となる間に宮田がかえり同点とした。七回は一死一、三塁から岩切の右儀飛でリードしたが、その裏逆転を許した。しかし九回、下窪の左前打や四死球などで二死満塁。川田の右中間を抜く三塁打で2点差を逆転。さらに田上の右前打で1点加えた。

鹿実のエース下窪は序盤から制球に苦しんだ。三回、興津に左翼本塁打で先制され、七回も山下に三塁打を許すなど3点を失った。九回は四球やエラーなどで一死二、三塁の場面を迎えたが後続を断ち、追いすがる富山商を振り切った。

緊張のしっぱなし

 

大会二番目のベンチ入り女子マネジャーとなった鹿実の久保さん。試合後、通路浦で「ふうっ」と大きな息をついた。「ずっと緊張していて、今やっとほっとしました」

ベンチでは大きな声を出して応援ができず、「スタンドの方がいい」という。試合前、久保さんがベンチに入って負けでもしたら、「選手に恨まれかねない」と話していたから、なおさらだ。

しかし、縁起物の愛用ボールペンでスコアブックに逆転劇をつけ、一安心の様子だった。

裏方さんも大活躍

 

鹿実の初戦で、脇迫剛マネジャーがNHKのゲストに呼ばれた。選抜大会に続いて二度目ながら試合前は「やっぱり緊張します」。旗色の悪いゲーム展開だったが、「下窪はコースが甘いですね」などと見事に大役をこなしていた。

また、ボールボーイはこれまで兵庫県内の高校野球部員が担当していたが、今大会から出場校の部員が務めることになった。鹿実は鹿倉武志、松元裕樹の両選手が志願、テキパキと主審にボールを運んでいた。



ここ一番で努力のあかし

【鹿児島実-富山商】9回表、鹿児島実2死満塁、川田が逆転の右中間三塁打を放つ =甲子園

「練習の虫」川田

2点差をつけられた九回、二死満塁ながらボールカウント2-1と追い込まれ後がない。4球目は外角高めの直球。「最後の打者になりたくない」一心で振りぬいた打球は右中間フェンス際に落ち、走者一掃の三塁打となった。

三塁ベース上で両手を高々と挙げガッツポーズする川田の表情は「どうだ」といわんばかり。鹿児島実はこの会心の一振りで試合をひっくり返し、春夏連覇へ向けて初戦を突破した。

狙い球は直球。しかし「ナチュラルシュート」に戸惑い、前の打席は三振。久保克之監督から「及び腰になっている。腰を据えて打て」とアドバイスされた。九回打席に入る前には、林川大希主将から「お前がどれだけバットを振ってきたかみんな知ってる。ここで打たないと意味がないぞ」と、プレッシャーともとれる励ましを受けた。

緊迫した場面で狙い通り右に運び、「ライトフライかと思ったが一塁を回ったところで(抜けたと)分かった。最高です」。汗もぬぐわず興奮気味だった。

本人は否定するものの、林川主将によれば、「いつも残って素振りをしているチーム一の努力家」。久保監督も「黙々と努力するタイプ」と評す。選抜の前までは三番。現在の打順について「自分が塁に出ないと始まらない」と役割をわきまえる。鹿児島大会で4割6分を超す打率を残した先頭打者は、「次は先制して自分たちの野球をしたい」と、早くも2回戦を見据えている。 



連覇へ夢をつなぐ

【鹿児島実-富山商】土壇場の逆転で初戦を突破、捕手林川(左)と握手する鹿児島実・下窪 =甲子園

下窪救った打線の粘り

頼みのエース下窪は序盤からピリッとしない。終盤には富山商に逆転され2点を追う九回攻撃前、「1球をあきらめるな」と久保克之監督が飛ばしたゲキにナインが奮い立った。

先頭の下窪は左前打し、すかさず盗塁。鍛冶屋はじっくりと四球を選び宮田がきっちり送っておぜん立ては整った。二死後、代打吉村が死球でつなぎ満塁とチャンスは広がる。ここでナイン、スタンドの期待を一身に担った川田の打球は右中間を深々と破り、三人の走者は次々と小躍りしてホームインした。

選抜では下窪の好投に頼るチームだった。今回は、鹿児島大会で力をつけた打線が粘りを見せ、エースを救った。「九回は打ってくれると信じていた」という下窪は「うれしかった」と打線の活躍に感謝した。

攻撃中ずっと立ちっぱなしだったベテラン監督は選抜優勝校の面目を保ち、やれやれといった表情を見せた。

三、五回のバントを確実に送っていれば、もっと楽な展開だったろう。二度の失敗で苦しい展開を予想したという久保監督も「打者から球が逃げていったとはいえ反省材料」と口元を引き締める。それでも「苦しみながらの1勝は大きい。今後につながると思う」と、鹿児島大会では経験のなかった試合に収穫を得た様子だった。

「次はやる」エース反省

「変化球の切れが悪く、直球も初回から高かった」。鹿実のエース下窪は被安打6ながら持ち前の制球力を欠き4四球。六回以降は毎回先頭打者の出塁を許し、鹿児島大会決勝とは別人のよう。三回、興津に許した本塁打は変化球が甘く入り、七回の山下の三塁打は直球。いずれも失投と認めた。

九回に打線の雰囲気に助けられ、その裏のピンチは「絶対点はやらない」と気迫のピッチングでしのいだ。試合後は疲労困憊の様子で「ホッとした」と文字通り安堵の表情を浮かべた。「鹿児島大会を制して自信がつき、気が抜けていたかも」と反省、「次こそコントロールをよくして、踏ん張る投球をする」と活躍を誓った。



ひとこと

  • 鹿児島実・久保克之監督:七回の山下君の一打は効いた。うちは越投手の外への球にタイミングが合っていなかった。下窪はゲーム感覚の戻りが遅かったようだ。選手のスタミナは心配だが次も頑張ります。
  • 富山商・沢田利浩監督:こちらが押していた試合で、できすぎ。勝てるとしたら前半の形しかないが、五回の失点は痛かった。九回のピンチはあわてないように指示したが、鹿実さんが上手だった。
  • 鹿児島実・林川大希主将:やっぱり夏に勝つのは難しい。下窪は七回くらいから力が落ちていたが、逆転されても大丈夫と、自分たちで言い聞かせた。みんなの思いが川田の一打に乗り移って勝ことができた。
  • 下窪陽介投手:早起きがきつかった。ブルペンではよかったが制球が悪くて苦しかった。次は自分の投球をして絶対勝つ。
  • 川田浩之一塁手:(九回は)林川に励まされて打席に立った。五回は納得いく打撃ではなかったので、今日の出来は85点。
  • 岩切信哉二塁手:前半はみんな早打ちになって、焦りもあったと思う。逆転して雰囲気が変わり、乗れると思った。
  • 松下友昭三塁手:左投手には苦手意識がある。打球は飛ばせたが、捕られてついてなかった。次はチャンスで打ちたい。
  • 宮田典幸遊撃手:初戦はやはり緊張してしまった。六回の守備で、タッチアップのアピールが認められてよかった。
  • 鍛冶屋直人左翼手:スタメンに入れてよかったが、もっと自信を持ってプレーすべきだった。次はチャンスに絶対打つ。
  • 田上智之中堅手:相手投手に対して打つタイミングが早かったが九回は右に持っていけた。
  • 和気隆浩右翼手:調子は悪くなかった。左投手から一本打ててよかった。次はバント失敗しないよう頑張る。
  • 吉村光広選手:最終回に僕がホームを踏んで逆転できたのですごくうれしかった。その一言につきる。
  • 黒瀬淳選手:川田のタイムリーは昨日夢に見ていて、そうなる気がしていた。正夢になってよかった。
  • 柴田大輔選手:初めての展開に面食らったが、最後まで負けるとは思っていなかった。
  • 新屋勝利選手:僕にとって甲子園での初めてのプレーはすごく緊張したが、とてもうれしかった。
  • 本村敏幸選手:エラーしたときは頭が真っ白になった。次は緊張しないようにやりたい。
  • 内倉大作選手:自分なりにベンチから声を出した。取り返せると思っていた。勝ってホッとしている。
  • 久保裕二選手:冷や冷やした。次の試合に出られたら、勝てるようにヒットを打ちたい。
  • 富山商・興津中堅手:(三回に先制本塁打)「(打ったのは)スライダー。二死だったので、ホームランだけ狙っていこうと思った。でも負けたら駄目です」
  • 富山商・簑浦主将:(逆転され父に続く1回戦突破ならず)「父の夢を果たしたかった。追いつかれてから向こうの強さを感じた」

(南日本新聞)


鹿児島実9回逆転の4点 春夏連覇へヒヤヒヤ発進

【鹿児島実-富山商】2点差を追う9回表2死満塁から鹿児島実の1番・川田が右中間を破る逆転の三塁打。センバツ王者が息を吹き返した。=甲子園

【鹿児島実-富山商】センバツの覇者をあと一歩まで追い詰めながら逆転負けした富山商ナイン。涙、涙で甲子園を後にした =甲子園

富山商の2点リードで迎えた9回表、それまで好投していた左腕・越に硬さがあったのか、先頭の下窪に左前安打され、鍛冶屋を四球で歩かせバントで二、三塁。2死後、代打・吉村にも死球を与えて満塁のピンチを招いた。越の動揺を見透かしたように川田は2-1からの外角球を狙い打って右中間へ走者一掃の三塁打。田上の右前安打で自らもかえって4点をあげ逆転。苦戦の末に鹿児島実が勝利を手にした。

3回に興津の左翼席への大会第2号本塁打で先行した富山商は、7回には山下の2点三塁打と老月の中前タイムリーで3点を奪った。下窪が本調子でなかったにせよ、果敢な攻めで優勢に進めていただけに惜しい試合を落とした。鹿児島実を手こずらせた越の投球は印象に残った。 

(報知高校野球) 

【鹿児島実-富山商】土壇場の9回2死満塁で川田が起死回生の逆転三塁打。ベンチの鹿児島実ナインはヒーローに向けて大拍手だ。


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